うなぎ屋さんで「並」「上」「特上」というメニューを見たことはありませんか?この場合、「上」が最も売れる商品になることが多いです。これは行動経済学でいうところの「損失回避」という心理効果が影響しているからです。
行動経済学を知ると、ビジネスに応用できることがたくさんあります。今回は、人が持つ「損失回避」という心理効果を使って、ビジネスへ活かす方法について解説します。
目次
「損失回避」効果とは?
まずは、「損失回避」について説明します。
損失回避とは、
・人は「失敗したくない」という気持ちを強く持っている
・「得をしたい」より「損したくない」の気持ちの方が強い
・上記より、ついつい無難な選択をしてしまいがち
皆さんも経験があると思います。例えば、コンビニでパンやおにぎりを選ぶ際、いつも同じものを選んだりしていませんか?
人は心の中で「失敗したくない、損したくない」という気持ちが強いため、新商品や未経験のものについては、積極的に選択しようとしません。
そのため、商品を提供する側としては、顧客に「失敗しなかった、損しなかった」と思われるような提供の仕方が重要になってきます。
選択肢が3つあると、真ん中を選んでしまう理由
2012年にオリジン弁当が実際に行った実例をご紹介します。
それまでは1種類しかなかった幕の内弁当を、2012年に3種類に増やしました。その結果はどうなったかというと、
並 :¥450
⬇︎
特上:¥650
上 :¥490 ⬅︎「上」幕の内弁当が最も売れた!
並 :¥450
<結果>
「上」弁当が最も売れ、幕の内弁当全体の売り上げも前年比78%Up!
上記より、真ん中である「上」弁当が最も売れることになりましたが、そこには以下の心理が働いています。
特上:¥650 ・・・ 高いけど、食べきれなかったら損しそう
上 :¥490 ・・・ 中間だからまぁ無難だろう
並 :¥450 ・・・ 安いけど、美味しくなかったら損しそう
人間は選択肢を前にすると、失敗したくない、損したくないと言う気持ちから、中間にある無難な商品を選択をしようとします。これが、3つの選択肢があると真ん中を選んでしまう理由です。
人の心理として、無難なものを選択するのは、良くあることだと理解できたと思います。次は、この心理効果を上手く使ってビジネスへの応用を図ります。
ビジネスへの応用編
1➡︎3へ商品数を増やす
商品が1つしかない場合は、3つへ増やします。選択肢が1つしかない場合、買うか買わないかの2択になるため、購入を促すことができません。
まずは、選ぶことができる、という状況を作ることが大切です。
また、3つの商品の価格設定のポイントは以下です。
- 一番下と中間の商品には大きく差をつけない、価格も少しのアップに
- 中間と最も高い商品は、内容に差をつけて、価格も大幅にあげる
- 上位の商品は、下位の商品内容を含めるようにする
全く内容の異なる3商品を並べてしまうと、単純な比較ができないため顧客はどれを選択するべきか悩んでしまいます。
重要なのは、価格が上がるにつれて内容をグレードアップし、中間と最も高い商品には差別化をして、中間の商品が一番コスパが良いと思ってもらうことです。
一番安い商品と中間の商品で、少しの価格差でお得感を感じてもらえれば、中間の商品がグッと選ばれやすくなります。
うなぎ屋さんを例にすると、以下のようなメニューであれば、「上」が選ばれやすくなります。
特上:¥4,500 ・・・ 鰻丼(4枚)、味噌汁、漬物、肝焼き
上 :¥2,500 ・・・ 鰻丼(2枚)、味噌汁、漬物、肝焼き ⬅︎コスパ良し
並 :¥2,000 ・・・ 鰻丼(1枚)、味噌汁、漬物
上記のように、中間にコスパが良い商品を置くと、顧客も「得をした」と感じ、選択を促すことができます。
多数➡︎3へ商品数を減らす
たまに、メニューが多すぎるお店はありませんか?
たくさんありすぎて、メニューを決める苦労した経験がある方は、多いかと思います。
人間には1日に使える決断力の量が決まっており、たくさんの選択肢から決めるのは、決断力を消費することになります。また、選択をするという行為自体が、ストレスにもなります。
アメリカで行われた有名なジャム販売の実験をご紹介します。
6種類と24種類のジャムをそれぞれ用意し、100人の顧客に対してどちらが多く売れたかを検証した実験になります。
普通に考えると、たくさんの種類があったほうが色々見れて良さそうな気がしますが、実際の結果は以下でした。
結果を見ると、6種類の方が24種類の場合と比較して6倍も売れました。この実験から分かったことは、「人は選択肢が多すぎると選べない」ということです。
もし、自分が扱う商品数が多すぎる場合は、数を見直す必要があります。顧客が選択時に悩んでしまい、購入を放棄している可能性があるためです。
商品数が多すぎると思ったら、顧客が比較しやすく、また選択に納得してもらえるように、3種類程度に減らしましょう。
売りたい商品を真ん中にする
最後は、商品を売る側の視点で考えた応用編になります。
もし、あなたが3種類の商品を扱っており、それぞれに利益が異なる場合、どの商品を売りたいでしょうか?
3商品の提供の手間が変わらない場合、ほとんどの方が最も利益の高い商品を売りたいと考えると思います。
再度うなぎ屋を例にしますが、以下のような利益のメニューがあった場合、「特上」が最も利益が取れる=売りたい商品になります。
特上:¥3000 ・・・ 利益:¥1500 ⬅︎最も利益が取れる商品
上 :¥2000 ・・・ 利益:¥1200
並 :¥1500 ・・・ 利益:¥1000
しかし、現状のメニューでは、中間にある「上」が最も売れやすい位置になっています。そのため、「特上」を中間に位置付けるように工夫します。
今回の例で言うと、「特上」➡︎「上」に変更し、もう一つ上の「特上」をつくります。(これまでの「並」は廃止する)
特上:¥4,500 ・・・ 利益:¥1,300
上 :¥3,000 ・・・ 利益:¥1,500 ⬅︎最も利益が取れる商品を中間へ
並 :¥2,000 ・・・ 利益:¥1,200
上記のようにメニューを工夫することで、利益の取れる商品が最も売れやすく、また店側にとってもより多く利益が取れるようになります。
まとめ
- 人は選択時に「失敗したくない」という損失回避の心理効果が働く
- 選択肢が3つあると、最も無難な真ん中を選んでしまう
- 商品が少ない、または多い場合は3つに絞り込む
- 最も売りたい(利益の高い)商品を、真ん中に配置する
明日の朝チェンジ
まずは、取り扱う商品の数を見直そう。次に、顧客が「損しなかった」と感じられるように、商品の位置付けを工夫しよう。